2019年 12月 02日

アレルギー考 ~スギ花粉症は自然からの警鐘か~

「アレルギーと住宅と考える会」の川田季彦さん(山形県酒田市 建築士)より、
著書『健康は住宅で決まる』をご恵贈いただきました。
それが機となり改めて「アレルギー」について考えさせられました。
以下の文章は、川田さんへ返信した手紙の一部です。
長文ですが、お時間のゆるす折りにでもご高覧いただけましたら幸いです。

川田様

アレルギーという言葉は、1906年にクレマン・フォン・ピルケ(1874〜1929)が
”Allergie” と題する論文で初めて用いた用語のようです。
それから百年後の現代、私たちにとってそれはあまりにも身近な症状となりました。
私もアレルギーを抱えています。中学生の頃アトピー性皮膚炎になりましたし、
食物では甲殻類に軽いアレルギーがあります。
「アナフィラキシー」という急性アレルギー症状が命の問題と認識されてはいるものの、
今や「アレルギー」は当たり前になりすぎて深刻視されていないのでは、とさえ感じます。
本著本文中にもありましたが、1990年代に深刻な問題とされたシックハウス症候群は、
建築材料へのホルムアルデヒドの使用制限、24時間換気設備の設置義務などを定めた
2003年建築基準法改正によって、すでに解決済と見なされてしまった感があります。

しかし、アレルギーと現代人との問題は深刻化していると思います。
『大辞林(第三版)』に、アレルギーは
「①本来なら無害であるはずの抗原に対する免疫反応によって引き起こされる疾患」
と定義されています。
本来なら無害である抗原の代表がスギ花粉です。
東京都の調査によると、東京都民のスギ花粉症推定有病率は、
平成18年度の28.2%から平成28年度には48.8%へと、この10年間で激増しました。
(下表参照)
花粉症は、人生の質(QOL) に影響を与るだけでなく、財政をも圧迫しています。
今年8月23日、健康保険組合連合会から「花粉症治療薬を全額自己負担にすべき」との提言がなされました。
年間で最大約600億円もの医療費削減効果があると試算されたようです。
(NHK NEWS WEB 2019-0823)
アレルギー性鼻炎は生死に係わる病気でないという感覚がその基層にはあるのでしょうが、
アレルギー症状は気づかぬうちに、猛烈な勢いで広まっています。
未発症の人の身体にも現在進行形で影響を及ぼし続けていることを忘れてはなりません。

http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/12/18/14.html(東京都HP)

話はとびますが、私はいま、「スギ問題」と自ら名づけた問いに向き合っています。
弊社のある福岡県朝倉市杷木は、平成29年九州北部豪雨の被災地となりました。
土石流とともに流れた夥しい量の流木、表層崩壊し赤土がむき出しとなった山々。
被災後も、梅雨や台風など大雨の度、不安にかられます。
そうしたなか、「もう杉はよか・・」という声を耳にしました。
それは辛い経験でした。杉・檜が人々に危害を加えたと私も感じてしまったからです。
山々にあっては国土を守り、住まいにあっては人々を癒す、
そんな木々に対する信頼がぐらついてしまいました。
今回の水害は、線状降水帯がもたらした9時間774㎜、24時間1,000㎜以上という猛烈な雨が原因です。
土砂1,100万㎥、流木21万㎥が流出したと推計されています。
しかし、連日の報道によって、流木が凶器と化し被害を拡大させたとのイメージが広がりました。
主犯はまるで流木であるかのようでした。そして以下のような意見が噴出しました。
「戦後の国策により日本の山々を覆う杉・檜の人工林は、
価格の低迷、就業者の減少などにより管理が行き届かず放置林と化している。
人工林(針葉樹)は根を深く張らず治山効果が低い」。

昭和28年、筑後川を初め日本各地で起こった大洪水の後は、
伐り尽くされ荒廃した山が原因とされ、杉・檜が植えられました。
ところが今では、土砂崩れなどの度に針葉樹林が問題視されます。
表層崩壊は、広葉樹、針葉樹の根系より深いところで発生しているにも関わらず。
つまり感情が先行した理論なのです。
このネガティブな感情論には、スギ花粉症の忌々しさが多分に加勢していると思います。

こうしたネガティブな感情をポジティブな感情へと転換することが私の仕事である、
と覚悟を決めたのは、じつは最近のことです。
現状の人工林を活かし100年後200年後へむけて、どのように山をデザインしていくか。
その過程で発生する間伐材を、どのような形で住まいに活かしていくか。
こうした問いに対し、山々を歩きながら考えてきました。
そしてようやく具体例がイメージ出来るようになりました。
これまで取り組んできた、大径木を活かした木取り、天然乾燥や40度以下の低温乾燥技術、
無垢板で建てる板倉構法なども、その実践編として有効であると確信しているところです。

「アレルギーは、自然からの警鐘です。
 自然が発するメッセージを読み取らなくなったとき、持続可能性は危うくなります」
「アレルギーには、現代社会が生み出した様々な問題が凝縮されているのです」
という本文箇所はとくに共感を抱きました。そして私にはこうも聞こえました。
アレルギーの典型「スギ花粉症」はどんな警鐘を鳴らしているのか。
それを生み出した現代社会の問題とは何か… 

このとき気になるのが、前出『大辞林(第三版)』のアレルギーのもう一つの定義、
「②ある物事を頭から拒否する心理的反応」です。
花粉症の蔓延する日本において、
最早「スギ」に対し心理的拒否反応しか示されないのではないか、と危惧しています。
下手をすると、「アレルギー」という言葉そのものにさえ「アレルギー反応」を抱かれるかもしれません。

そうしたアレルギー反応を打破するには、五感で感じてもらうことだと思います。
川田さんの取り組みで興味深いのは、
瓶の中へパンと一緒に様々な建材を入れ、カビの生え方の違いを観察するなどの透湿実験です。
スギと聞くだけで鼻がムズムズする、と花粉症の人に言われるスギ。
そのスギの板材がとびぬけて優秀なのは面白い。
現実の前には言葉もデータも不要です。
実験の輪が広がることを期待しています。私もやってみたいと思います。

杉岡世邦

※この透湿実験は、以下のHPで見られます。
アレルギーと住宅を考える会 http://www.kenchiku.gr.jp/
↑HPの右上の「facebook 実験グループ」をクリックし入会すると驚きのカビ実験を見ることができます。
他にも様々な興味深い透湿実験が紹介されています。

コメント(0)

コメントを残す