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2010年 5月 19日

「木の味覚」を取り戻す


今日は、私のHPのトップページにある「ごあいさつ」文を
リニューアルしました。
現在の、等身大の思いを正直に書いてみました。
ご一読いただけましたら幸いです。
 
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 最近あなたが、美味しいと思った食べ物は何ですか?
その素材は? 調理法は? 誰の手によるものでしたか?
またそれは、どんなシチュエーションだったのでしょうか?
 
 木に携わる私がこんな質問をするには訳があります。
今の木材を取り巻く危機は、「木の味覚障害」に根があると思うからです。
 
たとえば機能から食物を考えたときはどうでしょう。
1.生命を維持する栄養がバランスよくある
2.お腹をこわさない
3.一年を通し安定して食べられ、飢えることがない
 
 こういったモノサシから評価した場合には、もしかしたら、
「カロリーメイト」のような加工食品が最も優れたモノとなるかもしれません。
でも少なくとも、美味しいと記憶される食べ物になることはないはずです。
 
ところが木材において、
同様のモノサシが独り歩きしていると、私は危機感を抱いています。
 
1. 表面に割れがなく、機械測定した強度が印字されている
2. 人工乾燥機で乾かし、含水率が○%以下と表示されている
3. 一年を通し価格が安定している
 
 これらは現在、住宅業界で木材に求められていること。
農林規格(JAS)である木材が、工業製品のように安定した品質であるという証ですから、
木材は使いやすくなるし、クレームも減るし、良いことばかりではないか、
と思う方も多いことでしょう。
 
 でも工業製品のように仕立てる過程で、
木の持つすばらしい特性の多くが失われてしまう、とすればどうでしょう。 
 「酸味・苦味・甘味・辛味・塩味」という味覚が食べ物にあるように、
木にも、木目・色艶の美しさ、触ったときの温かさ、香り立つ芳香、強度、耐久性
というような味わい方があったはず。
  
 たしかに一枚モノ、一本モノの無垢(むく)の木材は、
割れたり、縮んだり、ねじれたり、腐れたり、虫食い穴があったり…
と、欠点とされる多くの「癖」がありますが、適材適所に使うことで、
強度を増したり、長持ちさせたりする、先人たちの知恵と工夫がありました。
 
 工業製品化された木材は、それら「癖」を除去するために、
素材の持つ「力」を奪ってしまっていると、私は思えてなりません。
  
 もしもあなたに、「よい木って何?」と聞かれたら、
 
1.樹齢が高く年輪がつまっていて木目(木の模様)が美しい
2.色つや・材質に優れ強度も高く、ねじれのない素姓の良いもの
3.芳香が香り立つ 
 
そんな木材だと、私は答えます。
 
 「木」の素晴らしさは、これだけに留まりません。
私たちに癒しを与えてくれるようなのです。
このとき、「木」に熱を加えないことが重要であるとわかってきました。
 
『木挽棟梁のモノサシ』11話~インフルエンザ・木のパワーで撃退
『木挽棟梁のモノサシ』12話~癒し・森林に科学的効果
(西日本新聞に寄稿したこの↑記事参照)
  
ですから私は、「木」に人工的な熱を加えない天然乾燥にこだわっています。
 
 天然乾燥とは、細い木を挟み積み上げて、木に風を当てながら数ヶ月から数年間乾燥させること。
昔から伝統的にやられていることなので目新しいものでなく、地味なために目立ちませんが、
これは、究極であるにもかかわらず皆がやりたがらない乾燥法なのです。
  
 丸太を仕入れて納品できるまでに1~2年かかり、資金の手当てが大変。
広大な敷地が必要で、膨大な在庫を抱えることになる。
割れたり腐ったりする木材の管理は手間のかかる至難の業。
 
 それなのに法律では、天然乾燥材は乾燥材と認められていません。
そのため、公共建築物など大きな木造建造物にも使われず、市場は狭まるばかりです。
やればやるほど、経営環境は厳しくなる・・・ 何度「もうだめだ」と思ったかわかりません。

 でも、「癖」を除去するために、素材の持つ「力」を奪ってしまう、
そんな、熱を加える技術は、極力使いたくありません。
 
なぜなら私は、「木味のよい木」がつくりたいから。
  
ぜひあなたにも、味わっていただきたいと、願っています。
そして、美味しいと言っていただけたら、最高に幸せです。
 
 
『木挽棟梁のモノサシ』9話~乾燥・「ゆっくり」が大事
(木材乾燥については、こちら↑もご参照ください。)
 

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